耳で聴く本屋さん

温泉

内容紹介

夜になると谷間は真っ黒な闇に呑まれ、底を川が轟々と流れている。石とセメントで築かれた地下牢のような共同浴場で、私は毎夜一人で入浴する。牢門のような出口からは白い瀬のたぎりが見え、楓の枝が差し出している。真夜中の恐怖と闘いながら温泉に浸かる私には、ある決まった形の恐怖があった。隣の湯に何かが来ている気配、男女の話し声のような水音、そして川から這い入ってくる不気味な存在への予感──。