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夏の夜、信州の山中の旧家に一夜の宿を得た「己」は、家の奥から絶えず聞こえる女の声が気にかかった。早口で聞き取れなかったが、ひとときも途切れず、一人でしゃべり続けていることだけがわかった。老僕・清吉は彼女を指し、病人だと言う。しかし女のしゃべる調子を聞くと、病人というよりも狂人という言葉の方が似合っていた。しばらくすると、言葉はわからないものの、どうやら何事をか相手に哀願しているようだとわかってくるが──。